- 今から20年以上前、私が小学生四年生の時に体験したお話です。
阪神淡路大震災に見舞われる1年と少し前、まだ60代だった祖母が何度目かの入院し、お見舞いに行く行かないの話の3日後に急逝しました。
このとき、お見舞いに行きたいと言った私に、学校休みたいだけやろ!と言い放った母もちょっとしたホラーかもしれません。
祖母はもともとお嬢様育ちで体も弱かったみたいなのですが、最初に周りが決められた結婚が嫌で家出して、水商売でなんとか暮らしていたところに祖父と出会い結婚したと聞いています。
前の結婚相手の方はまともな方だったようで、怒っても仕方のない話でしたが事情を汲んで籍を抜いてくれたそう。
結婚後2人は真面目に働いて、1人娘だった母や親戚なんかも養っていたそうです。
母は専業主婦をしていましたが、子供の頃はいつも1人で寂しかったし、あんたたちと違っておやつなんかなかったと言っていました。(何不自由ない暮らしを当たり前と思うな、と言いたかったようです)
本題である火葬場で体験した話は先ほど話した祖母についての話とは全く関係ないのですが、「やられたら3倍にして返してやれ」と教えてくれた祖母のことが、私は好きでした。
なので、悲しみと寂しさと生意気なことを言った過去への後悔があるだけで、お通夜から何から、怖いという気持ちなんてひとかけらもなかったんです。
火葬場においてもそうでした。
よく晴れた日の午前中かお昼だったか明るい時間帯に、ごく近しい肉親だけで行きました。
もう一組別のご家族もいらっしゃったような気がします。
火葬場の職員の方も、丁寧に接してくれる人ばかりだったと記憶しています。
怖いどころか、子供ながら祖母を見送る最後の儀式に臨む厳かな気持ちでした。
それなのに、待合室で座っていると徐々に肩に重みを感じ始めたんです。高温で人を焼く匂いって独特ですから、それでしんどくなったと思いました。
息苦しさも感じましたが、いくら小学生の私でもすなわち心霊現象だなんて思ったりはしません。
むしろこんな時に幽霊だとかそういう言葉が浮かぶこと自体腹が立ちます。
待合室は確か地下にあって、お骨を焼いている最中の生ぬるい独特の空気の中にいますから、やはりそれで気持ち悪くなってしまったか何かだと思いました。
不謹慎と思われたくなかったので、誰にも言いません。
それなのに、上から押さえつけられるような感覚は肩から頭のてっぺんにまで広がって重さを増していて、もうそろそろ祖母のお骨と対面するからと立ち上がった頃には、まっすぐ立てているか自信がないくらいでした。
頭の上から押さえつけるようにして何者かにのしかかられている。
頭をまっすぐあげていられないくらいの重さがとにかく耐え難かったです。その時私はまっすぐ立っていられていたのか、今でも自信がありません。
人知れず重さと戦っていた私でしたが、祖母の白いお骨と対面した時には段々と感じなくなって、係の人に骨上げの手順を説明してもらいながら家族や親戚と順番に骨壷にお骨をいれていく頃には気にならなくなっていました。
外に出て、親が手配していた車に向かう途中、姉に打ち明けたところ、姉も同じ状態だったそうです。
その頃には私も姉も、すっかり身軽でした。
大人になってからこの話をしても、火葬場って空気が悪いからそのせいじゃない?と返されます。
私だって、何か見えないものにのしかかられたか押さえつけられていたなんて思いたくありません。
でも、空気が悪いだけで頭のてっぺんから背が縮むかと思うくらいの重さを感じるものなのでしょうか。
それから母方の祖父、父方の祖母、祖父と順番に見送っていますが、そういう体験はしていません。
私や姉があのときに感じた重さは、いったい何だったのでしょうか。