すそれは平成になったばかりのある夏、私が海で体験した怖い話です。
その年、家族で淡路島に行き、海水浴場ではない浜におりて遊びました。
当時はバブル真っ只中だったのかな。どこに行っても日本人ばかりで、老若男女みんなが活力に溢れていたような気がします。みんなが同じ時期に休みを取って一斉に移動する、そんな時代でした。
野良ビーチといえどそれなりに賑わっていたので、今より広く大きく見えた海に入っても心細さはありませんでした。
あまり泳ぎが得意じゃなかった私は浮き輪がないと足がつくところまでしか行けなかったけど、緑色の海に顔もつけて、目を開けて水中を見て楽しんでいました。夏の太陽と波を体に受けて、子供ながらに癒しを感じていたんだと思います。
でも、純粋に楽しめた海水浴はその日までです。
突如として何か異様な存在感を背後に感じた私は振り返り、数メートル沖の海面に見え隠れするものを見極めようと目を凝らしたんです。
色は茶色で棒のような、でも木の棒にしては太いものが海面を浮き沈みしながら私の方に向かって近づいてきていました。
生き物ではない。だけど目が離せない。
「なんか、茶柱みたい。」
なかなか正体を掴めずにぼんやりとそれを眺めていた私に、少し離れたところで泳いでいた姉が叫びました。
「うんこや!にげろ!!」
あとは阿鼻叫喚です。
波とともに押し寄せるそれは見事な一本柱から逃れようと、私も周囲の人たちも死に物狂いで浜に向かいました。
でも、
「なんで私についてくるん?!」
特に頭の回る子供ではなかったのと、パニックだったのとで、横にずれたりせずに背中に一本柱を背負ったまま逃げ続けたんですね。
そのまま付かず離れずを保ちつつ、膝下程度の浅いとこまで来るのに疲労困憊になってたどり着くと、さすがに追っては来ません。
茶光りする一本柱は、崩れもせずに波の動きに合わせて漂っていました。心なしか残念そうな佇まいのそれは波を被っては艶を増して。
海は、そして人は怖いものだと、私の記憶にしっかりと刻みこまれた苦い夏の思い出です。
お姉ちゃんこの時のことまだ覚えてるかな?次に帰省したとき聞いてみようと思います。
ちなみに無断転載は禁止です(いるか?この一文)